日記の看板・冬
当庵主人の日記です。


■生きてりゃこんなこともある(2002.1.25〜26)

 1月25日は初天神。落語の「初天神」は旧暦、新暦どっち?なんて考えながら、せっせとMacを叩いていた私。数時間後に悪夢が待っているなんてこと、考えもしなかった。
 今週はとにかくなにもかもがスムーズに進んだ一週間だった。仕事はそこそこ忙しかったけれど、歌々志さんの「あがき」にも、吉朝さんの会にも、遅れることなく行くことができた。特に吉朝さんの会なんて、本当なら行けないはずだったのに。
 定時で仕事を終わって真直ぐ帰宅。明日の土曜は随分前から楽しみにしていた福笑さんの会。「油屋金兵衛」ってどんな噺なんだろう?もう一席ってなんだろう?吉朝さんの会のあとの飲み会で、松永さんがおもしろいと言ってらしたマジックの人ってどんなん?うきうき。
 家族そろって行くことになっていた。何時に家を出たらいいか、晩ご飯食べながら、そんなことを話していたのは午後8時過ぎ。
 その電話は突然にかかってきた。
 「今日入稿した仕事、審査通らなかったから、全部やり直し。明日は8時に出勤して。」

 ………すべてが、この電話でおじゃん。
 こうも見事にひっくり返されたら、怒りや悲しみよりなぜか笑いが先に出てくる。
 ぼーっと仕事して、ぼーっと友達と飲みに行ってカラオケ行って、お風呂に入って、こうして日記をつけていてもまだ実感がわかない。ひょっとしてこれって全部夢じゃない?実はまだ木曜の夜で、これから明日が来て、明後日には福笑さん見て笑ってるんじゃないかなぁ。

 私が行けなくなったことで、同じく楽しみを奪われた父が言った。
「これでええねん。聞くべき時には、どんだけ都合悪くても聞きに行けるし、行けない時には行かなくていいってことなんや。全部縁や。無理して出かけたら、きっと事故にあったり、ろくでもない目にあうんや」
 きっとそうなんや。
 そう思わなければ、やってられない。

■しんおん寄席「桂吉朝独演会」(2002.1.24)

 毎度のことながらダッシュで肥後橋、リサイタルホールへ。一時間近くお風呂に入っていないと汗が出ないほど新陳代謝の悪い私が、汗でぐっしょり。落語ファンって、結構いい運動になる。
 幸いにも二番太鼓がなり終わると同時に着席できました。
 当日の演目です。
  紅雀さん「いらち俥」
  吉朝さん「昆陽の御池」
  朝太郎さん「手品」
  吉朝さん「どうらんの幸助」+踊り「かんちろりん」
   中入
  吉朝さん「質屋芝居」

 全部おもしろかった。五感全部で楽しませていただきました。脳味噌が溶けたみたい。
 会がはねたあと、居酒屋に降りる階段を踏み外したくらい、足がふわふわしてました。
 今さらわかりきった話だけれど、吉朝さんはすごい。
 洒落たマクラは当たり前。噺が面白いのは当たり前。意表をつくサゲも当たり前。動きが美しいのも当たり前。浄瑠璃や踊りが上手いのも当たり前。下座との息がばっちり合っているのも当たり前。そんなんみーんな当たり前当たり前。だって、わし吉朝やもん。
 そういう感じなんです。
 変な感想かもしれないけれど、日本の文化ってすごい、この国に生まれて良かったと、しみじみ思った会でした。外国の人にこれを見せて「どや!日本の上方に吉朝ありじゃ!」って自慢したい。
 一回も携帯鳴らないし、「グレート吉朝!」のかけ声もええ風情。会場の雰囲気もお客の質もよかった。行く前は女性が多いかと思ってましたが、半々くらいだったかな?年齢層も広かったと思います。みんなして幸せそうな顔で帰りました。ほんとに楽しかったですよね、ね!

 そうそう、「質屋芝居」の時に、初めから羽織をつけずに、黒の紋付で手ぬぐいと扇子をキュっと持って高座に上がられたお姿がとても印象的でした。さらりとかっこいいことやってくれはるのは本当に憎いなぁ。
 おかげで肩凝り、かなり楽になりました。ああ、まるで夢みたいやったなぁ……。

■ちょっと疲れてるかな(2002.1.23)

 寒いと肩が凝る。なんだか目も痛いし、ちょっと体調悪いみたい。
 仕事後、気分転換もかねてちょっとお買い物。リラックスできるというエッセンスオイルを購入。
 本屋に寄って雑誌を立ち読みしていたら、向いのお店の店員さんがしゃべる声が聞こえてきた。声がでかいので、自然に耳に入ってきたその内容というのが……
「やっぱ、愛情よりお金でしょ!」
 ちょっとドキっとした。声は若い女の子の声。面白そうなので、聞き耳を立ててみた。
 彼女いわく、
 「だって、お金があったら、たいていなんでもなんとかなるでしょ。
  気持ちだって、お金でなんとでも変わるよ」
 「間違って好きになっても、お金がなかったら、やっぱり冷めてくるし」
 「好きな人が二人できたら、当然お金持っている人の方にいく」
 「男の人だって、お金持ってる女の方がいいでしょ」

 ねーちゃん、過激やなぁ。
 会話の相手のコメントを聞いてみたかったけれど、まったく聞こえなかった。残念。
 そりゃね、お金はたくさんあった方がいいに決まってるけれど、若い娘がそんなに声を大にして、カネカネ言うなよ〜。世の中金だけじゃないと思うよ。なーんて、金持ちになる予定のない私は、心の中で彼女に説教たれていた。(我ながらオバサンちっくだ)
   いったいどんな顔してるんや、この娘は。
 と、振り返って見たら、

 ……告白します、ブスやったらおもしろいのにと思っていました。くすっと笑って通りすぎたら、ちょっと気分いいかな、なんて思ってました。
 でも、彼女の若さと美貌は、その強気な発言に説得力を与えるのに、十分なものでした。
 なんか、悔しい。めっちゃおもんない。

 と、いうわけで、ちょっとムシャクシャするけれど、明日は木曜日なのに落語に行くんだもん。
 吉朝さんの「しんおん寄席」、ああ、吉朝さんを聴くのめっちゃ久し振りやわ。しかも前座は紅雀さんで、朝太郎さんの手品も見られる。うれしぃなぁ。
 とりあえず、私の明日の幸せは3300円で買える。そりゃ、お金はたくさんあった方がいいけれど、でも……。

■ぼちぼち(2002.1.22)

 終業間際、インターネットが突然使えなくなり、復旧に何時間もかかってしまった。アンラッキー。
 でも、おかげで偶然職場でかかっていたテレビに、桂佐ん吉さんが映っているのを見ることができた。あのまま帰っていたら、当然知らずじまいだった。ラッキー。
   帰宅してお母さまの作ったありがたい晩ご飯をいただく。右手で箸を持ち、右目で「プロジェクトX」を見ながら、左手で新聞をめくるという、たいへんお行儀の悪いことをしていたところ、目に飛び込んできたのがこごろうさんの写真!先日の独演会の評です、もちろん大絶賛。
 「そうそう、私も行ったでぇ。おもろかったなぁ」と、思わず独り言。
 写真もよく撮れていて、ままよ先生のご指導に従い、B5サイズに切り抜く。見落とさなくてよかった。これもラッキー。
 ま、今日はそんな感じ。

■あがき!(2002.1.21)

 今日は、歌々志さんの「あがき」!こうなったら仕事は持って帰って家でやればいいわ、ふふんふーん♪
 と、いうわけで珍しく今日は少しも焦らずにレッスンルームに到着。開口一番は……おやおや「年越しオールナイト落語会」でお目にかかった旭堂南湖さんではありませんか!まるでバネが入っているように微妙に縦揺れ……ぷぷっ、おもしろい。やっぱりあの動き方ができないと講談師にはなれないんかな……。で、上手く揺れられなかったら、師匠に張り扇でしばかれたりなんかして……想像は膨らみます。
 演目名はわからないので「あぁ狭山遊園(仮)」にしときます。知っている人がいらしたら教えて下さいませ。
 続いて「歌々志の生きてきた日本」今日は中編。まず最初に前回のアンケートについてコメント。
「『昭和46年には私はまだ生まれてなかったので、なんとも言えません』という方がいました、もう無理しちゃって。歳二つ三つしか変わらないくせに」
……それ、ひょっとして私のことですか?確かに前回のアンケートではそう書きましたけど。だったら、うれしい。そういえば私の方を見てたカモ♪(歌々志さん、途中で新聞読めなくなって懐から眼鏡取り出しはったくらいですもん。客席は絶対見えてないわな。しゅん……。)
 今日は中学校入学くらいまでのお話を。さすがに私も記憶があるので、とても懐かしく聞きました。次回でこの企画も最終回。さぁ、どうなるのかしら。
 で、私と同じ7月14日生まれの文華さん「ふぐ鍋」。めっちゃクールなのに、時折くしゃっと笑いはるのがたまらなく可愛い!衣装のコーディネートも素敵。黒の羽織、薄紫の小紋に半襟と帯は赤。お扇子の骨も煤竹のような、渋いいい色目でした。はぁ、目力強いなぁ。素敵。
 カッコいいのはもちろん見た目だけと違います!淡々・飄々としてるのに、なんやねーん、あのおもしろさわ!カッコいいわぁ、文華さん。下手から見たお顔はうちのおとんの若い頃に似てるのに、なんでそんなにかっこいいのん?やっぱり男って中身なのね。
 歌々志さん「宗論」、歌之助師匠の思い出話をたっぷりとしてくれて、うれしい。師匠譲りというこのネタ、ぶっ飛んでいて、派手なアクションの歌々志さんにはよく似合う。しばらく「イ、ェース・キリスト」とか「おとうたま」とか、耳から離れそうもありません。爆笑。
 中入後、本日の私の一番のお目当て「崇徳院!」
 なんか、普通の崇徳院と違う。ははは、なんなのあの軽やかさわ(笑)
 若旦さんは全然死にそうじゃないし、熊さんには悲愴感がないし。ずーっとサザエさんのBGMが後ろで鳴ってる感じ!そののんきで明るい感じが、めっちゃ楽しいんです。色気がとことんないのがかえって新鮮!
 と、いうわけで、と〜ってもいい落語会でしたの♪
 ああ、でもこれから(1時30分)まだ片付けなきゃいけない用事があるのに、先に日記を書いてしまった……。
 あぁ、眠い。でももうちょっと頑張ろう……。

■新春笑福亭松喬落語会(2002.1.19)

 行って来ましたタダ落語!
 ほんまにタダでええのん?だって松喬さんやで。
 ああ、ありがとう、わが町豊中!どなたが考えた企画かは存じ上げませんが、遠いところから手を合わせて感謝しております!
 往復ハガキが三枚とも当って、めでたく父・母・娘という取り合わせで家の前からバスに乗り込み、行って参りました岡町の伝統芸能館。カウント好きな父いわく、150人近く入っていたみたい。座ぶとん席+足の不自由な方のための椅子席少々。開演前は歌舞伎風の縞の幕が降りていた。こんなん伝統芸能館では見るの初めて。
 ウキウキ待っていたら、あらら、二番太鼓はテープなのね。残念、しゅん。
 しかも、続く「石段」の前に、男性の声で「いしだん」と言った、あれはなんやねん。なんのCDや!
 気を取り直して、前座は笑福亭右喬さん「看板の一」
 小咄のマクラから入ったら、なにしろお客さんはご近所のお年寄りがほとんど!ちゃーんと心得てはりますがな、右喬さんより先に、「ふーん」(笑)「へー」(笑)。
 続いて遊喬さんのんびりと「道具屋」。力が抜けた感じが好き。
 遊喬さんが済んで羽織を拾ったところで、舞台から音響室に向かって「出囃子お願いします」。あれ、音響担当の人、絶対仕事忘れて笑ってはったんやわ。しかもその後ちょっとハプニング、「笑福亭松喬」の名ビラがメクリからはらりと落ちて、遊喬さんと右喬さん二人してわらわらと復旧。  そしてようやくおまちかね松喬さん、うちの父が大好きなネタ「手水廻し」。サービス満点の長いマクラは、近畿各地域の言葉の違いの話から。播州小野出身ということで、言葉をずいぶん師匠に直されたということなど、面白い話満載!笑いっぱなし!初めはおしゃべりしていたおばちゃんたちも、いつのまにやらすっかり高座に釘付け。丹波の方言がまためっちゃとぼけていておもしろい!長頭廻すところなんて、笑い過ぎて苦しくてたまらんかったですよ。芸達者!しつこいようやけど、本当にタダでよかったのん?あ、ちなみにこの日に使用された膝隠しはまん中にでっかい五枚笹入り!高座返しの時に見たら、裏にばっちり「笑福亭松喬」の千社札が貼ってありました。おお、特注や特注や! 
 中入後、「花筏」。柿色地に横縞の羽織、五つ紋は手のこんでそうな刺繍。中の袷は明るい柿色の小紋。羽織を脱ぐ時、太めの羽織の紐をしゅっと膝まで伸ばした仕種がかっこええ!
 このネタ、「日本の話芸」で見て、「是非とも生で!」と思っていたところだったから、私はもう身を乗り出して聴きました!ややふくよかな松喬さん、このネタはとってもお似合いです。
 ぽんぽんぽーんとテンポよく進む中、松喬さんが「提灯屋の徳さん」と言ったとたん、場内から爆笑の渦。ちょっと肩を落としてほんの少し眉を動かして情けない表情をしただけなのに、なぜかめっちゃおかしいんです。すごいよなー、おおげさな動きしてへんのに、なんでこんなにおかしいんやろう?
 会がはねて、親子してご機嫌で歩いていたら、山道でもどこでも行けそうな車が後ろからやってきた。松喬さん御自ら運転されている。道を歩いていた私ら親子に、松喬さんすれ違い様になんと頭さげて下さった!うわぁ、感激!会が終わってまでツボつかんでくれはった。ほんまにほんまに、タダでよかったんやろうか?
 元から落語好きな私と父が大喜びしているだけでなく、落語を聴いたら寝てしまう母が、めっちゃ楽しんでました。なんと来週の福笑さんの会も「行く」と言っています。うわぁ!うれしいけれども、落語行く度に親子連れっていうのも、ちょっとねぇ。会の後の飲み会に行けなくなるやん。ある意味、ちょっと不安やなぁ。

■「幇間の遺言」(2002.1.18)

 たくさん落語を我慢している今日この頃。
 「さえずり会」に「アポロあべの寄席」、吹田メイシアターの「枝雀一門会」。それに先週の「いたみ寄席」に「住まいのミュージアム寄席」。あぁみんな、行きたかったなぁ‥‥。
 思うように落語に行けないとなんだか寝つきが悪い。
 で、眠れないので、この一週間は本を読む時間が長いのでぇす。中でも当たりだったのが「幇間の遺言」。
 悠玄亭玉介という東京の幇間の病床での思い出話を、小田豊二という方が聞き書きしたもの。タイコモチねぇ、落語ではよく出てくるけれど、ほうほう、こういう仕事をしている方だったのね……。昔の旦那も幇間も、いろいろと粋というか、あほというか、おもしろい遊びをなさったものですねぇ。こういう人たちが本当にいたから、愛宕山とかけんげしゃ茶屋とかの荒唐無稽な落語ができたのね、納得。男に金と暇を与えたら、ロクなこと思いつきよらん。ほんま、しゃーない生き物やわぁ。愛おしいんやけど。
 玉介さん自身、元噺家さん。聞き書きなので、文章はもちろん、てやんでべらぼうめ、馬鹿言っちゃいけないよ、な江戸言葉です。これが読んでいてとっても気持ちいい。
 昔の歌舞伎の名優とか、大看板の噺家さんの思い出話もたっぷりでした。ほんまおもしろかった!お薦めです。でも、落語好きやったら、すでに読んでいる人多いかも。「えー、まだ読んでなかったの?」とは言わないでね。
 さて、土曜日は一週間ぶりの生落語です。笑福亭松喬さんの会に家族三人で行って来ます。楽しみ−!

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