桂紅雀さんイラスト 桂紅雀さん

 私が今一番好きな落語家さんです。この方を初体験した2001年6月19日の私は、休み無しの勤務でクタクタ、肩バリバリ、眼精疲労で、おニューの靴で足は靴ズレ。あげくに彼氏と大げんか!身も心も稀に見る絶不調でありました。
 仕事が終えた時には、すでにどこの落語会に行っても一席目には間に合わない時間で、「途中からしか聞けへんのやったら、一番木戸銭が安い会に行こ」数ある落語会の中から紅雀さんの会を選んだのはそんなささいな理由でした。
動く紅雀さん


 この日聞いたのは「となりの桜」でした。
 会がハネた後の私は、まるで足もみに行った後のように軽い体と、ツヤツヤの頬で家路についていました。
 この日会場に居た人全員が、私と同じほどの衝撃を受けていたわけではないと思います。でも、フワフワしたお風呂上がりのような感覚がしばらく体から抜けなかったほど、この日の落語はよかったんです。
 その時のことが忘れられなくて、この方が出ていると、多少の予定を曲げてでも出かけてしまいます。明るくて華やいだこの方の落語はやっぱり大好きですが、あの日の「となりの桜」と同じだけの感動は、まだ味わっていません。聴く方のコンディションが、噺家さんから得られる感動の量をとんでもなく増幅する、ということがあるのかもしれません。落語がナマモノだというのは、こういうことを言うのかな?なんて考えたりもします。